途方に暮れてる

愛について書く

狂人日記

 

 昨日、公演の本番でした。

タイトルは『狂人日記』。団体に属さずに、わたし個人として人とコラボするはじめての企画だったのでものすごく緊張した。責任は自分だからね。少しだけ語りたいと思う。

 

今回のはオマージュ作品で、元ネタは魯迅大先生の短編小説『狂人日記』。有名だから読んだことがある人も多いと思うけど、あらすじ紹介。

 主人公は、昔の友人が病気になったと聞いてお見舞いに行く。するとその友人の兄が家にいて、「弟はひどい被害妄想狂になってしまっていたが、いまはもう完全に治って仕事に出ているから心配しないでくれ。これは、弟が病気だった時に書いてた日記だ。面白いから貸してあげるよ」と、一冊の日記を渡される。そして主人公がそれを読む、というだけの短いお話。その日記の内容が、「この村のみんなが俺を食べようとしている。兄貴もみんなグルだ。この村に人を食べたことのないやつなんていないんだ。俺も知らない間に人肉を食べさせられていたのだろう…」みたいな感じでなかなかに狂ってる。

つまり、村人たちから見れば弟はまぎれもない「狂人」だったけれど、弟から見てみれば、人肉を食べている(それは妄想かもしれないけど)村人たちこそが「狂人」だったんだね。というお話です。

この村の人肉食文化が弟による妄想だったら別に問題はないのだけれど、もしもほんとうに狂っているのが村人全員で、人肉食文化がこの村にほんとうに存在していたのだとしたら、「人肉を食べたくない」と主張する「正しい」はずの弟は村人によって「狂人」の烙印を押されて、いなかったことにされてしまうと思う。マジョリティはマイノリティを食うものだし。そしてこの『狂人日記』という作品は、村人(マジョリティ)と弟(マイノリティ)、どちらが狂人でどちらが狂人でないのか、分からないように描かれているからすごい。

 

これを読んだ時、「狂ってるって一般に言われてるものがほんとうに狂ってるとは限らないんじゃないか?」と思った。自分が狂ってるか狂ってないかなんて自分じゃ絶対にわからないし、そもそも何が狂気かなんて時代や国や文化によって変化してしまうから、とても曖昧。

 

今回のストーリーは私が考えたのだけれど、実はこの部分を私は一番気をつけていました。

公演のあらすじはこう。

「1週間前に失踪した兄を探してください」という依頼を受けて屋敷にやってきた探偵さん。依頼主の妹は、「お兄ちゃんが私に黙って姿を消すはずがない。きっとお兄ちゃんの日記の中に、お兄ちゃんの居場所や動機の手がかりが隠されている」と言う。実際に日記を読んでみると妹への狂気的な愛がつづられており、シスコンすぎて気持ち悪くなったお兄ちゃんが妹に構ってもらいたくて姿を消した、ということがわかる。

しかしフラグを全部立ててお兄ちゃんのもとに妹が会いに行くと、妹は「お兄ちゃんを食べて私の一部にする!これで永遠に一緒!」と言って、お兄ちゃんをハンバーグにして食べてしまう、というオチ。

 

今回つまりプレイヤーは、妹の依頼を完遂することで、妹がお兄ちゃんを手際よく殺せる手筈を整えた、ということになります。

プレイヤーには、「自分はただ謎を解いただけだったのに、結局人肉を食べるような狂人の手伝いをしてしまった。でも依頼主の依頼は達成できている。」という後味の悪さを体感して欲しかった。狂人の手伝いをした自分も狂人の一員なのではないか?「妹が狂ってたー!お兄ちゃんがシスコンで気持ち悪かったー!」と言いつつ公演後にハンバーグを食べたくなっている自分も狂人じゃないか?みたいなことを思って欲しくて、このストーリーにした。

だから主軸はグロやホラーではなく、狂気って何か?ということだったのです。

 

伝わってない気がするけど…。後からこの記事読んでもらって、少しでも伝わればいいな…。

 

私は学校も文学系だし(文学部ではないけど)、小説書くし、本読むのが大好き。謎解き公演って体験だから、本を読むよりもストーリーを強く実体験させられるものすごくすごいツールなんだと思う。私は謎よりもストーリー重視人間だから、「謎を解いたことによる達成感、成功失敗という二元的な体験」よりも「謎を解いたことで、成功はしたはずなんだけど何か違和感が残る複雑な体験」をいつも目指している。

でも今回謎とストーリーが融合しきれていなかったり、公演としてどたばたしすぎて粗が目立ちすぎていたり、もっと頑張らなきゃいけないと思うことがたくさん見つかったのでもっと頑張ります。面白いって言ってくださった方ありがとうございます。たぶん不満に思った人もいると思う、その方は本当にごめんなさい。次につなげていきたいと思うので宜しくお願いします、頑張ります。

 

そういえばわたしはこのブログ誰に向けて書いてるんだろう?

 

 

追記。思ったよりもたくさん読まれている気がします。ありがとうごさいます。魯迅先生の『狂人日記』気になった方は是非読んでみて!『阿Q正伝』とか『薬』もおすすめだよ。訳してる人はたくさんいるけれどわたしはやっぱり竹内好が好き。読みやすい。青空文庫で読めるやつは井上紅梅ですけど、こちらも別の味があって面白いです。あと色川武大って作家も『狂人日記』って小説を書いてます。これは魯迅先生のとは全く違うテイストだけどもとても寂しい小説です。まあ日記なのでとりとめないこと書いてあったりするけど、それにも増してラストの切なさがぐわっとくる感じ。ぜひぜひ読んでみてください。

文学作品をオマージュした公演はまた機会があればやりたいです。